NADAの歴史

耳鍼治療の歴史

 

薬物依存や精神疾患障害に対する鍼治療が始まったのは1970年初期です。

手術後の痛みを軽減する効果を研究していた香港の精神外科医・温医師が

アヘン中毒者の耳鍼のツボに電気刺激を与えると、禁断症状が寛解したとの訴えがあり、

離脱に効果があることを発見しました。

この報告がアメリカに伝わり、以降の大規模研究へ進むきっかけとなりました。

 

1974年、ニューヨーク・サウスブロンクスにある、リンカーンホスピタルのマイケル・スミス医師が

温医師の開発した電気耳鍼治療をメサドン治療(ヘロインやモルヒネ中毒の治療)に使用し始めました。

リンカーンホスピタルでは経費節減のため、電気鍼の代わりに簡単な耳鍼治療を行いましたが、

電気鍼でなくとも効果があることが判明し、以後10年の歳月をかけ、

効果的なツボの配置・NADAプロトコル5NPが開発されました。

マイケル・スミス博士とヘロイン中毒患者

 

1985年、NADA  [National Acupuncture Detoxification Association] USA発足。

その後アメリカでは、この治療法が薬物依存症治療のプログラムに広く取り入れられるようになりました。

さらにアメリカのみならず、欧米や東南アジアにも広がり、

現在では世界40か国のNADAが各国独自の活動をしています。

また、薬物依存症だけでなく、アルコール依存、処方薬依存、

自然災害後のPTSD、退役軍人のPTSDにもNADAプロトコルが用いられています。

 

薬物裁判所(Drug Courts)におけるNADA鍼治療

 

NADAの耳鍼治療は、1989年以来、アメリカ各州の麻薬裁判所やメサドンホスピタルで使用されています。

最初に導入された3州での事例をご紹介します。

 

#1 フロリダ州マイアミ・メトロデイド群

 

1980年代後半のコカイン流行に対応して、

フロリダ州マイアミ・メトロデイド郡の麻薬裁判所では、

NADAの治療のプログラムを取り入れています。

NADAプロトコル導入により、マイアミのコカイン中毒者の検挙が削減され、再逮捕率も減少。

また、前逮捕から再逮捕される期間も長くなりました。

1990年の独立研究(Independent Research)研究主任のJohn S Goldkamp博士は、

耳鍼治療の価値を以下のように指摘しました。

 

「被告を安定させるためのリソース、そして治療に対する親和性を高めるためのリソースとしてNADAプロトコルは大いに役立っている」

 

NADAの治療体制を最初に監督した、元検事総長 Janet Rino女史は

 

「最初は疑い深かったけれど、みんな鍼治療は手助けになっていると話すので、私も信じます」

と語っています。

 

#2 オレゴン州マルトノマー郡〜麻薬裁判所は犯罪を削減し、何百万もの人を救う

 

1991年、マイアミドラッグコートが開始された直後に、

第二の薬物裁判所オレゴン州マルトノマー郡でもNADAの治療プログラムが導入されました。

1998年の独立研究(Independent Research)は、麻薬裁判所NADAプログラムが犯罪の再犯を劇的にに減らし、

推定される「回避されたコスト」は数百万ドル、

10年間で790万ドル以上(約80億円)の節税効果があったと報告されました。

 

#3 カリフォルニア州サクラメント郡

 

2008年、薬物事犯減少の原因として鍼治療は非常に大きな影響を及ぼした、

とされています。

カリフォルニア州での麻薬裁判所の常習的犯罪率は17%と、

米国内の平均27.5%を大きく下回りました。

 

2017年現在、アメリカでは24州でADS法(Acu Detox Specialist-耳への施術に限り、鍼灸師でなくても鍼治療ができる制度)が施行されています。

 

海外における薬物依存症者処遇とWHO声明

 

近年、海外における薬物依存症者に対する処遇は、矯正施設への収監から

医療支援・包括的な社会復帰支援へと変化しています。

化学的に精製された薬物によって引き起こされた中毒や離脱症状を、

薬物を用いない治療法で緩和すること

に、海外では30年以上前から関心が高く、医学的研究が進められてきました。

 

1993年、WHOは、薬物依存症治療において「鍼灸治療」に効果があると言う声明を発表しました。

 

WHO 声明(1993年)

「鍼治療は簡単で副作用がなく、安全で且つ安価であり、薬物依存症に効果的である。」

“It was felt Acupuncture was a safe and effective and inspective treatment for addictive disease being easily administrated and producing significant results.”

 

この声明に後押しされるように、NADAはアメリカのみならず、ヨーロッパや東南アジアにも広がりました。

オーストリア

デンマーク

フィンランド

ドイツ

ギリシャ

アイルランド

ノルウェー

スウェーデン

スイス

イギリス

イタリア

カナダ

グリーンランド

ハンガリー

ルーマニア

ロシア

インド、フィリピン、南アフリカ、チュニジア、バミューダ、ブータン、チリ、コロンビア、コスタリカ、エクアドル、グァテマラ、ハイチ、ホンジュラス、イラン、イスラエル、ケニア、メキシコ、ネパール、ペルー、プエルトリコ、シンガポール、タイ、ウガンダ、ウズベキスタン − 以上40か国。